「これからの時代に必要なのは、考える力です」
教育の話では、必ずと言っていいほど出てくる言葉です。
ですが、それが具体的に何を指しているのかは、あまり説明されません。
「論理的思考力が育ちます」と言われても、育ったかどうかをどう確かめればいいのかが分かりません。
この記事では、考える力を「行動」として定義します。
そして、育ったかどうかを見分ける方法をお伝えします。
あわせて、プログラミングだけの効果ではないことと、測れないことも正直に書きます。
「考える力」は、あいまいなまま使われています
「論理的思考力が育ちます」では、何も分からない
この言葉の問題は、確かめようがないことです。
- 育ったかどうか、どうやって判断するのか
- 何ができるようになれば「育った」なのか
- テストの点数が上がれば育ったことになるのか
どれも答えが出ません。
そして確かめられない以上、「育ちます」という説明は、実質的に何も言っていないことになります。
だから、行動で定義します
そこでこの記事では、目に見える動作に置き換えます。
考える力が働いているとき、人は具体的に何をしているのか。
そこを分解すれば、確かめられる形になります。
考える力の正体は、3つの動作です
分解すると、次の3つに絞れます。
① 分解する
やりたいことを、手順に分けることです。
「キャラクターをジャンプさせたい」という気持ちは、そのままでは実行できません。
上に動かす、少し止める、下に戻す——という手順に分けて、はじめて形になります。
これは料理でも、旅行の計画でも、宿題の段取りでも同じです。
やりたいことと、実際にやることの間には、必ず分解の作業があります。
② 切り分ける
うまくいかないとき、どこが原因かを絞ることです。
思ったとおりに動かないとき、全部が悪いわけではありません。
どこか一部が違っているだけです。
だから「ここまでは合っている」「この先が怪しい」と範囲を狭めていく。
当てずっぽうに直すのではなく、可能性を一つずつ消していくという作業です。
③ 言葉にする
分からないとき、何が分からないのかを言葉にすることです。
「分からない」だけでは、誰にも助けられません。
「ここまではできたけれど、この部分が動かない」と言えて、はじめて答えが返ってきます。
これは人に聞くときも、AIに聞くときも、自分で調べるときも同じです。
問いの形にできるかどうかが、解決までの速さを決めます。
育ったかどうかは、こう見分けます
3つの動作は目に見えないように思えますが、実際には行動に出ます。
「分からない」と言うまでの距離が伸びる
これがいちばん分かりやすいサインです。
以前は、少しつまずいた時点で「分からない」と言っていた。
それが、「分からない」と言うまでに、いくつか試すようになる。
- ここを変えてみたけど、だめだった
- 順番を入れ替えてみたけど、変わらなかった
- 前に似たことをやった気がする
思い当たる可能性を、一つずつあたっていく。その手順が増えていきます。
「分からない」という結論に至るまでの距離が、少しずつ伸びる。
これが、考える力が育っているときに実際に起きていることです。
「わかんない!」が「あれ?」に変わる
当教室で見ている変化を、もうひとつ挙げます。
通い始めのころ、うまくいかないと「わかんない!」と声が上がっていた子が、しばらくすると「あれ?どうしてだろう」という反応に変わります。
この2つは、似ているようで違います。
- 「わかんない」は、行き止まりの言葉です。そこから先がありません
- 「あれ?」は、続きがある言葉です。おかしいな、どこだろう、と次が始まります
②の切り分けが働き始めた合図だと考えています。
「答えを教えて」が「どう調べればいい?」に変わる
質問の中身も変わります。
以前は「これ、どうすればいいですか」と答えを求めていた子が、こう聞くようになります。
「どうやって調べたらいいですか?」
③の言葉にする動作が、質問の形に出ています。
答えではなく、答えにたどり着く方法を取りに来ている状態です。
それはプログラミングだけの効果ではありません
ここは、はっきり書いておきます。
この変化は、プログラミングに特有のものではありません。
未経験のことを始めて、慣れていけば、思考の順序が変わるのは当たり前です。
スポーツでも、楽器でも、料理でも同じことが起きます。
「プログラミングを習えば考える力が育ちます」という言い方は、正確ではありません。
では、何が違うのか
違いがあるとすれば、3つの動作を使う頻度です。
プログラミングでは、この3つが毎回セットで発生します。
| 場面 | 使う動作 |
|---|---|
| 作りたいものを決めて、手をつける | ① 分解する |
| 思ったとおりに動かない | ② 切り分ける |
| 自分で解決できず、聞きに行く | ③ 言葉にする |
そしてうまくいかないことが、非常に頻繁に起きます。
1回の作業の中で何度も、②と③を通ることになります。
さらに、やり直しのコストがゼロです。
書き換えて実行し直すだけなので、試す回数が自然に増えます。
回数が多いから、練習量が多くなる。それだけの話です。
特別な魔法があるわけではありません。
この力は、測れません
もうひとつ、正直に書いておきたいことがあります。
考える力は、数値で測れません。
テストの点数にも出ませんし、級や段位もありません。
「3か月で考える力が20%伸びました」といった示し方はできません。
だから当教室でも、「考える力が育ちます」とはお約束していません。
保護者の方から成績への影響を聞かれたときも、こうお答えしています。
直接的には関係がなく、成績が上がる保証はできません。
ただ、各教科や日常生活でも活きる「考え方の土台」が育つのは確かです。
ただし、それを数値で証明することはできません。
実際に聞くのは、こういう言葉です
そのうえで、保護者の方から伺うことがあります。
「分からないことがあったときに、投げ出さずに、とりあえず考え始めることが少し増えた」
「考える力がついた」という言い方ではありません。
ですが、上で書いた「『分からない』までの距離が伸びる」と重なる観察だと思っています。
測れないけれど、行動としては見える。
この記事でお伝えしたいのは、そういう性質の力です。
家庭でできること
難しいことは必要ありません。質問を2つ持っておくだけです。
「どこまでできた?」
できていない部分ではなく、できている部分から話を始める質問です。
「分からない」と言っている子も、実際にはかなりの部分ができています。
それを本人の口から言わせると、残りの部分に問題が縮みます。
これは②の切り分けを、外から手伝っていることになります。
「今は、何をやろうとしてるところ?」
そもそも何をしようとしていたかが、曖昧になっていることがよくあります。
説明しようとすると、子どもは自分でそれを言葉にします。
そして説明しているうちに、自分で気づくことが珍しくありません。
これは①の分解と③の言葉にする動作を、同時に促す質問です。
どちらも、答えを渡していません
この2つに共通しているのは、答えを教えていないという点です。
質問なので、考える主体は子どものまま動きません。
そして保護者に知識がなくても使えます。
むしろ内容が分からないほうが、聞くしかなくなるので都合がいいくらいです。
よくある質問
Q. 考える力は、何歳ごろから育ちますか?
年齢の下限はありません。
ただし「うまくいかない経験」が必要なので、少し難しいことに取り組む場面があるかどうかのほうが重要です。
Q. 勉強ができる子は、考える力もあるということですか?
必ずしも一致しません。
決まった答えを速く出す力と、答えのない状況で進む力は別物です。
むしろ正解を探す学習に慣れているほど、答えが決まっていない場面で戸惑うことがあります。
Q. うちの子はすぐ「分からない」と言います
まだ距離が短い状態です。
それ自体は問題ではありません。「どこまでできた?」と聞くところから始めてみてください。
分かっている部分を確認するだけで、距離は少しずつ伸びます。
Q. 考える力がつくと、成績は上がりますか?
保証はできません。
成績を上げたいなら、その教科を勉強するほうが確実です。
学校の勉強との関係については プログラミングの習い事は意味ない?成績との関係を正直に解説 で正直に整理しています。
Q. プログラミング以外でも育ちますか?
育ちます。
条件は「うまくいかないことが起きる」ことと「やり直せる」ことの2つです。
この2つが揃っていれば、分野は問いません。
Q. 親が教えられなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。
むしろ教えられないほうが、質問に集中できます。
「どこまでできた?」は、内容を理解していなくても聞けます。
まとめ
「考える力」を行動で定義すると、3つの動作になります。
- 分解する … やりたいことを、手順に分ける
- 切り分ける … うまくいかないとき、どこが原因かを絞る
- 言葉にする … 何が分からないのかを、言葉にする
そして育ったかどうかは、「分からない」と言うまでの距離で見分けられます。
以前はすぐ「分からない」と言っていた子が、いくつか試してから言うようになる。
思い当たる可能性を、一つずつあたるようになる。この距離が伸びていきます。
ただし、プログラミングだけの効果ではありません。
未経験のことに慣れれば、思考の順序が変わるのは当たり前です。
違うのは、3つの動作を使う頻度だけです。
そしてこの力は測れません。
数値でも級でもないので、「育ちます」とお約束することはできません。
家庭でできることは、質問を2つ持っておくことだけです。
「どこまでできた?」 「今は、何をやろうとしてるところ?」
どちらも答えを渡していませんし、保護者に知識がなくても使えます。
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「考える力が育ちます」とはお約束できません。
測れないものなので、そう書くのは誠実ではないと考えています。
ただ、「分からない」と言うまでの距離が伸びていく様子は、実際に見ています。
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