「AIに仕事を奪われる」という言葉を、ここ数年よく耳にするようになりました。
そして保護者の方が考えるのは、こういうことだと思います。
うちの子には、なくならない仕事に就いてほしい。
自然な願いです。
ですが、この記事では少し違う結論をお伝えします。
「なくならない仕事」を探すのは、おすすめしません。当てられないからです。
代わりに考えたいのは、仕事の中身が変わったときに、乗り換えられるかどうかです。
その理由と、そのために何が要るのかを順にお話しします。
「なくならない仕事」は、予測できません
予測が当たらない理由
10年後になくなる仕事のリストを、これまで何度も見かけました。
そして当たったものもあれば、外れたものもあります。
理由は単純です。
技術がどこまで進むかも、社会がそれをどう受け入れるかも、事前には分からないからです。
「AIが絵を描くようになる」と10年前に言われても、多くの人は信じなかったと思います。
逆に「自動運転で運転手の仕事がなくなる」という予測は、思ったほど速く進んでいません。
予測を頼りに進路を決めるのは、当たるかどうか分からない賭けになります。
実際に起きているのは、職業の消滅より「中身の変化」
そしてもう一つ、見落とされがちな点があります。
職業が丸ごと消えることは、意外と少ないのです。
実際に起きているのは、同じ職業名のまま、やることが入れ替わるという変化です。
- 会計の仕事 … 手で集計する作業は減り、数字を読んで判断する部分が残った
- デザインの仕事 … 手を動かす部分は道具が担い、何を作るか決める部分が重くなった
- 事務の仕事 … 転記や集計は自動化され、仕組みを整える役割に変わってきた
職業名は残っている。でも中身が別物になっている。
つまり子どもが直面するのは「就いた仕事が消える」ことより、「就いた仕事の中身が、途中で変わる」ことのほうが多くなります。
だから、問いを変えたい
すると、考えるべきことが変わります。
× どの仕事なら、なくならないか
〇 中身が変わったときに、乗り換えられるか
前者は予測の問題で、当たるかどうか運まかせです。
後者は準備の問題なので、今からできることがあります。
そもそも、働き方の枠組み自体が変わっています
これは子どもの話というより、すでに大人の世界で起きていることです。
「キャリア3.0」という言葉があります。
徳谷智史氏の『キャリアづくりの教科書』(ニューズピックス)で示された考え方で、同書はキャリアを「自分で行き先を決め、必要な武器を身につけながら歩む旅」として捉えています。
かつては、会社に入れば道筋がある程度用意されていました。
その後、転職やスキルアップで自分の市場価値を高める形が広がりました。
そして今は、道筋そのものを自分で描く段階に入りつつあります。
「与えられた枠の中で働く」から「自分で枠をつくって働く」へ。
この変化が意味しているのは、正解を教われる相手がいなくなるということです。
だからこそ、乗り換える力が必要になります。
乗り換えを支える3つの力
では、何があれば乗り換えられるのか。3つに絞ってお伝えします。
① 問いを立てる力
AIが得意なのは、答えを出すことです。
苦手なのは、何を聞くべきか決めることです。
たとえばAIに「観光地を紹介して」と頼むのは簡単です。
ですが「誰と行くのか」「何を体験したいのか」「予算はどれくらいか」を決めるのは、人の側の仕事です。
目的を決め、必要な情報を整理し、適切な問いにする。
これは仕事の中身が変わっても、変わらず必要になる部分です。
そしてこの力は、AIを実際に使う経験の中で育ちます。
曖昧に聞けば曖昧な答えしか返らない、という往復を繰り返すうちに、「どう聞けば伝わるか」の感覚がついていきます。
詳しくは 子どものAIの使い方|質問する力の育て方と、AI・人の使い分け でお話ししています。
なお、この「問いを立てる力」は、考える力を構成する3つの動作のひとつです。
残り2つと、育ったかどうかの見分け方については 子どもの「考える力」とは何か?育ったかどうかを見分ける3つのサイン をご覧ください。
② 伝える力
AIは、驚くほど自然な文章を書きます。
メールでも資料でも、下書きの速さでは人が勝てません。
では伝える力は不要になったのか。そうではありません。
AIができないのは、相手の状況に合わせて伝え方を変えることです。
- 落ち込んでいる相手を励ます
- 意見が違う相手とすり合わせる
- 聞き手の反応を見ながら、話す内容を変える
これらは相手との関係の上に成り立つもので、文章の上手さとは別のものです。
そして意外なことに、AIに質問する練習が、この入口になります。
「何を知りたいのか」「どう言えば伝わるか」を言葉にする作業は、相手が人でもAIでも同じだからです。
③ つなげる力
ここがいちばん見落とされている部分だと思います。
「プログラミングができる」「英語ができる」といった単体のスキルは、AIによって誰でも手が届くものになりつつあります。
翻訳も、コードを書くことも、道具が代わりにやれる範囲が広がりました。
その中で価値が出るのは、複数を掛け合わせることです。
- プログラミング × デザイン
- AIツール × 発想力
- データ分析 × 人と話す力
ひとつを極め切る必要はありません。
組み合わせのほうが、真似されにくくなります。
そして子どものうちからできる組み合わせは、意外と身近にあります。
Scratchで作ったゲームにAIで物語を足す。
作ったものを人に説明する。小さな掛け合わせの経験が、そのまま土台になります。
なお、学び続ける姿勢そのものについては 自走力のある子どもの育て方|プログラミングで「自分から動く力」が身につく理由 で詳しく扱っています。
土台になるのは「好き」です
3つの力を挙げましたが、それを動かす燃料が必要です。
未来にどんな職業が生まれ、どれが変わるかは誰にも分かりません。
ただ、ひとつだけ言えることがあります。
好きなものに熱中した経験は、後から使えます。
- ゲームが好き
- 絵を描くのが好き
- 人と話すのが好き
- 調べものが好き
どんな「好き」も、出発点になります。
「好き」は「知りたい」に変わり、それは努力している感覚のない学習になります。
そこで得たものが、選択肢を広げていきます。
キャリアは、積み木のように積み上がります
そしてキャリアは、最初に完成図を描いて作るものではありません。
興味 → 挑戦 → 失敗 → 修正 → できた
これが折り重なって、あとから「ああ、これが自分の道だったのか」と見えてきます。
先に地図を描く必要はありません。必要なのは、試しながら進める環境です。
すでに、変化は始まっています
「将来の話」と思われるかもしれませんが、制度の面ではもう動いています。
2022年度から高校で「情報Ⅰ」が必履修になり、2025年度からは大学入学共通テストの出題教科にもなりました。
国立大学を受験する場合、文系志望でも原則として避けられません。
つまり「これからの時代に必要」と言われていたものが、すでに入試の得点に接続しているという状況です。
詳しくは 子どものプログラミングはなぜ必要?必修化から大学入試までつながっている理由 をご覧ください。
よくある質問
Q. 結局、どんな職業を目指せばいいのでしょうか?
今の時点で決める必要はありません。
むしろ早く決めすぎると、中身が変わったときに動きにくくなります。
決めるより、好きなものに熱中する経験を増やすほうが、結果的に選択肢が広がります。
Q. AIに奪われにくい仕事はありますか?
職業名では答えにくい質問です。
ただ「相手に合わせて判断する部分が多い仕事」は、置き換わりにくい傾向があります。
ですがその仕事も、中身は変わっていきます。
Q. プログラミングを習わせれば安心ですか?
安心はできません。
プログラミングそのものも、AIが担う範囲が広がっています。
この記事でお伝えしたいのは、スキルとしてのプログラミングではなく、そこで身につく考え方のほうです。
Q. 「つなげる力」は、どうすれば育ちますか?
別のことを2つ同時にやっている状態をつくるのが早道です。
プログラミングと絵、プログラミングと音楽など、好きなものと組み合わせられる形にすると自然に起きます。
Q. 親が新しい技術についていけないのですが
問題ありません。
教える必要はなく、一緒に驚く役でかまいません。
「それどうやったの?」と聞く相手がいることのほうが、子どもには役立ちます。
まとめ
「なくならない仕事」を探すのはおすすめしません。予測は当たらないからです。
そして実際に起きているのは、職業の消滅よりも職業の中身の変化です。だから問いを変えます。
中身が変わったときに、乗り換えられるか
乗り換えを支えるのは、この3つです。
- 問いを立てる力 … 何を聞くべきかを決める
- 伝える力 … 相手に合わせて伝え方を変える
- つなげる力 … 複数を掛け合わせる
そして3つを動かす燃料になるのが、「好き」です。熱中した経験は、後から必ず使えます。
キャリアは最初に完成図を描くものではなく、積み木のように積み上がるものです。
必要なのは完璧なルートではなく、試しながら進める環境だと思います。
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